ライターとして、おまとめローンの記事をまとめて執筆したところである。
おまとめローンとは、多重債務者が、既存の借金を一本化するためのローン。
おまとめローン自体の金利が低いとは限らない。
だが、複数の借金を併せて100万円以上になる人なら、一本化できると金利が間違いなく下がる。利息制限法による金利の上限は、100万円以上の場合15.0%だからだ。
こういうローンの基礎は頭に入っているが、執筆のときはWeb上の記事は調べる。
もちろん、丸パクリではない。
人さまの記事の「てにをは」と語順を入れ替えれば、コピペ発見ツールには引っ掛かりにくくはなるが、そんなことをしたらかえって負担が大きい。
他の記事を参考にはするが、一度きちんと理解をしたうえで、自分の言葉で書くほうがずっと確実でスムーズだ。
そして調べていくと、当然ながらいろいろと疑問を持つ記事も出てくるものだ。
先日紹介した、「リボ払いをカードローンで借り換える」ことを推奨する広告記事など、大変悪質なものだと思う。
だいたい、リボ払いのほうが利息が低い場合が多いのだ。一般論としては、借り換えたら負担が大きくなりかねない。
こういう広告主は、自分たちに利益が上がる(記事をクリックして、成果報酬を得る)ならば、債務者が食い物にされてもいいと思っている。たちが悪い。
金融とは関係ないが、現在ネットの広告で、「あのT田Q美子さんもダイエットに成功」というサプリの広告記事がやたら目立つ。
読んでみたが中身はひどいものだった。いずれ消費者庁からお咎めがあるだろう。
もっともそれまでに散々儲けるのであろうが。
危険な宣伝を載せるネット媒体の側は、それほど非難もされず、広告料で儲けっぱなし。なんだかね。
こういう記事の提灯持ちは嫌だ。
もっとも私だって広告を貼っているから、単純に批判できるかというと難しいのも事実。
おまとめローンの記事を書くため調べると、「おまとめローンはよくない」という内容が出てくる。
おまとめローンより、任意整理のほうがいいのだそうだ。
もちろんこれは、法律事務所の任意整理の広告に誘導するためのものである。ポリシーがあってのお勧めではない。
その記事によれば、おまとめローンの欠点として、次のものが挙げられている。
- 借金は減らない
- 過払い金請求があっても、借換えで請求できなくなる
「借金は減らない」のは当たり前。おまとめローンの大前提というべき部分。
法律上の金利自動スイッチングによって負担が軽減されるのだから、それでいいのである。
「過払い金」に関する説明もまた、ややミスリードっぽい。もちろん狙ってのものだ。
そもそも過払い金の対象となるのは、2007年頃より前の借金。
10年の時効に掛かっておらず2019年に請求できるとするなら、それ以後、一度も完済していないことが求められる。
そのような人、まだそんなにいるのだろうか。過払い金についてはこちらも。
そして、「借換えで請求できなくなる」もまたミスリード。
新しいローンの資金で、古いローンを返すだけのこと。別に「まとめたから過払い金請求不能」という関係にはない。
古いローンを完済して10年以内に過払い金を請求すれば間に合う。
いろいろロジックの嘘を積み上げて誘導する「任意整理」というのが、利用者にとってすばらしいプログラムであれば、まだいい。
だが本当にそうだろうか?
任意整理は法律上の制度ではなく、弁護士が、過払い金と併せて受任しているプログラム。
任意整理をすると、このような利点がある。
- 業者からの督促が来なくなるのでストレス軽減
- 弁護士が業者と交渉してくれる。返済猶予と将来利息カットを狙う。
消費者金融は利息商売。将来利息をカットすると、ボランティアになってしまうから冗談ではない。
ただ、それは交渉ごと。
まるっきり焦げ付くよりも、ある程度のところで手を打ったほうが業者としてもいいわけだ。
このように任意整理は、最初から借金を完全に解消する制度ではない。
弁護士は依頼人には決して語らないが、背景に「交渉に応じないなら破産するぞ」という脅しを秘めていない限り、効果がない。
そして、返済猶予や将来利息のカットがうまくいったとする。その結果、個人信用情報に、猶予があった事実が記録される。
そうなると利用者も無傷ではない。
いわゆるブラックという状態に入る。ブラックリストのブラック。そんなリストは存在しないが、その意味。
5年間はクレジットカードも作れなくなるし、既存のカードも解約させられる。
まあ、借金の督促から逃れられるなら、それもいいだろう。
ただ冷静に考えるなら、任意整理だって、借金が綺麗になくなるわけでない点ではおまとめローンと変わらないのだ。
違いは、法律事務所が儲かるかどうかである。
借金を整理する以上、そのくらいは仕方ない? 確かにそうだろう。
「返す気はあるのだ。でも精いっぱいで払えないのだ。まけて欲しい」
という律義な人には、任意整理は向いている。
ただ、法律事務所の商売のための制度でもあることは忘れないほうがいい。
借金をなしにする方法は他にちゃんとある。法律上の制度である、自己破産。
なぜ、自己破産を嫌がって、任意整理ならいいと思うのだろう? 利用者は任意整理のほうがずっと多いらしい。
確かに「破産」に伴うイメージは最悪だろう。芸能人が自己破産すれば格好のネタになるのを見ても。
だけど、自己破産は近代国家にとって大事な法制度。
なにも、浪費家だけが破産を余儀なくされるわけではない。ここに至るにはさまざまな原因がある。
いずれにせよ、人間の責任には限りがあるからこそ自己破産の精度が設けられているわけだ。
弁護士も商売だけど、法制度にない任意整理のメリットばかり数え上げるのは、法の精神を忘れているように思えてならない。
なぜ自己破産のハウツー記事が少ないか。弁護士が儲からないからだ。
任意整理と違い、本人にもできる手続きである。受任したって大して儲からない。そんなものだ。
自己破産したくても、ギャンブルや浪費で作った借金の場合は認められないのが原則。
このことだけ知っている人もいるかもしれない。
世間のものの見方として、「ギャンブルで借金作ってチャラにするなんて許せない」と思うのは当然だ。だから法律に定めがある。
だが、破産に至る道しるべは様々である。お金がないからこそ、正常な判断を失い、ギャンブルで取り返そうとする人もいるわけである。
実務上は、多くの裁判所で、ギャンブルの借金であっても極力認める運用をしている。
社会政策としては、極力自己破産を認める方向の運用は、間違っていないと思う。
自己破産のデメリットも、言うほどのものではない。
財産はすべて処分しなければならないが、仕事さえあれば生きていける。
破産すれば、当然ブラック。だが、5年間この記録が消えない点では、任意整理と別に変わりはない。
銀行系の個人信用情報だけ、任意整理と異なり10年間残る。だが、銀行系でないクレジットカードならこの情報は見ないから大丈夫。
もっとも5年後、クレジットやローンの履歴が真っ白になってしまっているから、これで審査に苦労することがあるのは事実。だがこれは反射的な不利益であり、自己破産のデメリットとまでは言えない。
そもそも、任意整理の後であっても、履歴が真っ白になる状況は同じだ。
士業や警備員の業務についていなければ、破産による職業制限も全くないのである。
それどころか、勤務先にバレることも、まずない。
官報をくまなくチェックすればわかるが、そんなもの読む人はそうそういない。
以上、別におまとめローンや自己破産のお勧めではないのだが、ネットの記事は読み方に角度をつけたほうがいいという話です。